一瞬を輝かせる

夏目漱石の「草枕」の冒頭に・・・「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる・・・とある。

全くその通りである。また、70歳を過ぎて、ちょっと気持ちに余裕が出たのか、人生振り返り後悔することが多くなって、何ごとも悔やむことばかりで、過去から離れられずに、過去を引きずっている人がとても多い。

身について離れなくなってしまうほどの恐怖、苦痛、屈辱、苦悩というものは、生きている限り尽きることない。だから、いつまでも怨みや憎しみ、悲嘆、絶望するのでなく、そのことごとくを払拭しなければ、悩みや苦しみから抜け出せない。

とかく人は過ぎ去ったことを捨てきれずに引きずってしまう。ところが過去に執着すれば今が今でなく、今も過去になってしまう。今が過去がになれば、未来を見つめることなく、過去に埋没してしまう。

いつまでも今が過去のままであれば、未来に向かって一歩も踏み出せない。また、過去を引きずって、悪循環から抜け出せなければ、明るい希望の光を見いだせなくなってしまう。

冬が春になるものでなく、秋が冬になるものではない。今とは、過去でも、未来もない。今は今のみで、過去が今になったのではない。今が未来になるのでもない。生は生のみ、死は死のみで、生きているのは、一瞬の今である。だから今の一瞬を輝かせることである。