べいちょう協議と今後の動向

米朝協議が先月29日に米朝同時に合意があったと同時に発表があった。北朝鮮がウラン濃縮活動などの一時停止に合意した。米国側が24万トンの栄養補助食品を提供し、さらに追加的な食糧支援を実現するための措置を取ることで合意したと伝えた。

北朝鮮側はウラン濃縮活動一時停止に対する国際原子力機関IAEA)の監視を受け入れる。日米韓が求めてきた6カ国協議再開の前提条件に北朝鮮が応じた形で、08年12月以後開かれていない6カ国協議再開に向け、関係国の動きが活発化しそうだ。

日本としては、米朝協議を受け、松原拉致問題担当大臣は「北朝鮮が拉致の再調査を行い、従来『死亡』とした被害者が実は『生存』だったとなれば大きな進展と受け止める」と述べ、拉致問題でも北朝鮮側が具体的に対応するよう求めた。

松原大臣は、これまでも「新体制の北朝鮮に従来と異なる対応を期待する」と述べ、今回の米朝協議でウラン濃縮活動の一時停止や長距離ミサイル発射停止に合意した北朝鮮に対し、拉致問題についても「2008年から実施されないままの拉致の再調査」の実施など具体的な対応を強く求めた。だが、北朝鮮の約束反故は常習的であり信用ができない。

NHKのニュース解説で出川解説者は・・・2008年の12月、6か国協議が決裂して以降、北朝鮮は強硬姿勢を一気に強めました。翌2009年の4月には弾道ミサイルを発射、国連安保理で非難決議が採択されると、これに反発して6か国協議からの離脱を表明、IAEAの査察官にも退去を求めました。

5月には2回目の核実験を強行、6月にはウラン濃縮活動に着手したことを明らかにし、2010年にはその施設の一部をアメリカの科学者に公開しています。つまり今回の合意は、弾道ミサイルの発射、査察官の退去、核実験、ウラン濃縮と、2009年以降エスカレートさせてきた行動を、6か国協議が決裂する前の状態に戻した、スタートラインに戻ったに過ぎないのです。

さらに今回の合意には、いくつかの条件が付けられています。ひとつは期間、もうひとつは対象となる地域についての条件です。

まず期間の条件です。今回の合意は、核実験をしない、ミサイルの発射はしないと約束したのではありません。あくまでも一時的な凍結、一時的な措置としています。北朝鮮は、過去に何度もこうした約束を反故にしてきました。

さらに気になるのは、この一時的な措置がいつまで続くのかという点です。アメリカは、いつまでの措置なのか明確にしていませんが、北朝鮮側の発表には、「アメリカとの間で実りある会談が行われている間」という一文が入っています。これは、北朝鮮が「実りある会談でなくなった」と判断すれば、いつでも一方的に核実験やミサイル発射を再開できるとも受け取れます。

次に対象地域についての条件です。ウラン濃縮活動は、新たな核開発につながるとして各国が懸念しています。しかし今回の「一時凍結」の対象になるのは、あくまでも「ニョンビョンにある核関連施設」に限定されています。専門家の多くは、ニョンビョン以外の場所でもウラン濃縮を進めている可能性が高いと指摘しています。ニョンビョンでのウラン濃縮が一時凍結されたからと言って、北朝鮮で行われているすべてのウラン濃縮活動が停止されるという保証はありません。

こうして見てきますと、今回の合意内容をどう読むのか、その解釈にはかなりの幅があるように思えます。しかもたくさんの条件付きです。今回の合意を、あまり過大に評価すべきではないと考える所以です。

北朝鮮としては、来月に迫った故キム・イルソン主席の生誕100年の記念日など大きな行事を前にして外交面で成果が欲しい、超大国アメリカと対等に渡り合っていることを内外に示し、新しい体制を早く安定させたいところでしょう。一方のアメリカも、イランの核開発疑惑も抱え、北朝鮮の核開発をこれ以上エスカレートさせたくないという思惑があります。今回の合意は、こうした双方の思惑が一致して生まれたいわば妥協の産物と見るべきではないでしょうか。

現に、キム・ジョンウン氏の体制になってからも、北朝鮮は「核抑止力は何ものにも代えがたい革命遺産である」という主張を繰り返しています。新しい体制になって対話路線、融和路線に転じたと軽々しく判断すべきではありません。

次に、今後の展開を考える上で、重要と思われる点を3つ指摘したいと思います。ひとつは、言葉ではなく行動を厳しくチェックしていくということです。今回の合意事項が、北朝鮮の言う「実りある会談が行われている間」の「一時的な措置」で終わることのないよう、抜け穴をひとつひとつ丁寧に埋めていく作業が求められます。北朝鮮が言葉で約束したことを、きちんと実行に移すのかどうか見極めていくことが大切です。

もうひとつは、6か国協議のメンバー、とりわけ日米韓3国の連携を強化していくことです。今回アメリカは、北朝鮮との協議に先駆けて日韓両国と緊密に意見交換を行い、北京での協議の後も、デイビース特別代表がソウルと東京に立ち寄って協議結果についての検討を行いました。

こうした姿勢を見せることが北朝鮮への大きなプレシャーになります。かつてブッシュ政権の末期には、アメリカが単独で北朝鮮と直接交渉し、日本や韓国が蚊帳の外に置かれてしまうという局面が何度かありました。北朝鮮としても、各国の思惑が交錯する6か国協議ではなく、アメリカとの直接協議を通じて、制裁の解除や経済協力を得たいというのが本音でしょう。北朝鮮のペースに巻き込まれないよう、日米韓ががっちりとスクラムを組んで対処していくことが肝要だと思います。

3つ目は、拉致問題への対応です。日朝協議は、2008年の夏以降、3年半以上も開かれていません。この間、拉致問題はまったく進展せず膠着状態に陥っています。新しい体制になった北朝鮮とどうわたり合っていくのか、日本も真剣に考えねばなりません。北朝鮮からそれなりの譲歩を引き出したアメリカの協力も得ながら、日本としても北朝鮮に対し拉致問題の進展を強く 働きかけるべきと考えます。

今回の米朝間の合意は、確かに進展ではありますが、けっして手放しで喜べるものではありません。核、ミサイル、そして拉致の問題を解決するための、スタートラインに戻ったに過ぎないと受け止めるべきでしょう。6か国協議の再開に向けて、まずは合意事項をひとつひとつ実効あるものにしていくことが大切だと思います。